示現寺は喜多方郊外国道121号線を北へ進んだ米沢へ向かい大峠へさしかかる手前に「熱塩温泉」の看板に誘導され右折し温泉宿を何軒か過ぎたあたりの狭い上り坂の奥まったところにある。ただの温泉神社のようですがこれがおもしろいお寺だった。
今でこそ外れにある鄙びた寺だが、会津と米沢・庄内を結ぶ街道から近いところにあるのでそれなりの賑わいをみせていたのろう。
本堂には「曹洞宗大本山總持寺御直末」との札があり、この寺を開いたといわれる空海さんを経てここにお勤めした源翁（げんのう）さんは能登の總持寺での修行後、諸国行脚（あんぎゃ）の旅に出て静岡、神奈川、栃木や茨城の各地に開山し、その後、喜多方の慶徳寺（けいとくじ）を経て、ここ示現寺を開山したらしい。
バイクを階段の下に留めヘルメットを取ると「シーン」という音が聞こえそうなほどの静けさ。訪れたのは5月。新緑で山々がこんもりとし始めた頃だ。
見上げると、すぐに山を背にして皐月の空に総門と本堂の赤いトタン屋根が見える。石段を登り総門の前に立つとようやく本堂、山門、金堂などの伽藍全景が目に入る。
少し先に鐘楼と山門がいっしょなったような建物があり、その奥に本堂。左側には木々に囲まれて少し暗くなって見えるところに僧堂が見る。
門は四脚門で扉がついている。夕方は明かりが点されるのでしょう裸電球がつるされていて飾り気のない印象。（LEDでした）
真っ直ぐ進むと楼閣風な山門があり、上には鐘があり鐘楼になっている。山門をくぐると「コ」の寺型の建物があり本堂、庫裏、僧堂に囲まれる。
いわゆるお寺風な建物ではなく、赤いトタン屋根で民家風の一つの大きな建物に見えるが、本堂の右側には客用の玄関があり唐破風造りになっている。
伽藍内の建物は何度も消失しているそうで近世の建物になっているが、総門や観音堂には唐様のみごとな彫刻でかざられている。
特に観音堂の松や菊などの透かし彫りの彫刻は、安土桃山時代作風を伝えるもので引きつけられる技を感じるもの。ここは会津三十三観音五番札所になっていて、いつ来てもお参りした善男善女の名前を書いた紙が重なるように貼ってあり、それが数年分重なってはがされを繰り返してお堂の壁は、願う人の名前で埋め尽くされている。
何百というリアルな庶民の願いを受けとめるのは覚悟がいりそうなほど。
5月の陽気と苔の湿気を感じながら、伽藍の敷地から出るとぽこぽことお湯の音が聞こえてくる。
無料足湯が登り口にあるので、散策の帰りにどうぞ。さて、次の里寺を目指すことにする。

[] 内容の一部は歴史春秋社：会津の寺を参照しています